<小女郎狸>
新居浜市の
一宮(イック)神社の境内に、
国指定の天然記念物の
「一番樟」という大きな楠の木がある。
この楠の木の所に説明板があった。
「小女郎大明神」として
楠木神社に祀られている小女郎狸は、
壬生川の喜左衛門狸、
屋島の禿狸と共に、
三兄妹として伊予狸族の名門で、
昔から
一番樟に棲んでいる眷族と言われている。
代々一宮(イック)神社の宮司につかえて
可愛がられていた利口な狸であったが、
ある日、つい出来心から
初穂鯛を一匹失敬したことがばれて、
宮司に叱られ、
とうとう古巣の大楠から追放されることになった。
それから間なく、
さ迷い歩くうちに、浜辺へ出た。
そして、
今漕ぎ出そうとする漁船を見つけたので、
慈眼寺の和尚に化けて乗り込んだ。
その日は大変鯛がよく釣れるので、
鯛にはコリゴリの小女郎狸は、
じっと目をつむって「南無鯛散菩薩」と祈っていたが、
足許でビチピチ躍る瀬戸の鯛をを見ては、
空腹の煩悩払うべくもなく
一匹ぐらいは、仏果を得ようと、
そっと法衣に隠れて盗み食いしているところを、
漁師に見つけられ、
「この生くさ坊主め」とばかり
櫂をもって一撃を受けた途端に、化けの皮が剥がれ、
尻尾を出して、狭い船の中ウロウロして、
あわや、水葬礼になるところを、
やっとこのことで、命が助かり、
その時、小女郎狸は、前非を悔いて、
「このご恩は必ず報います。
大坂へ着いたら金の茶釜に化けますから、
それを売って鯛の身代金にして下さい」
と約束をして
漁師にご恩返しをした正直な狸である。
それから小女郎狸は、
美しい娘に化けて
道頓掘や千日前を見物して暮らすようになったが、
その後、一宮の森に帰り、
諸願成就の守り神として信仰を集めている。
タグ:小女郎大明神